しょぼくれてないで、胸をはって生きよう
この町が、この楽団が、わたしの誇りだから。
志賀町福浦。過疎化が進む港町。ここには数十年続くアマチュアオーケストラ・福浦漁火オーケストラがあった。練習場は漁協組合の漁具倉庫。それぞれ仕事を持ちながらオーケストラの練習を楽しみにしている。お世辞にもうまいとはいえないが、コンテストの優勝を目標に連日練習を重ねている。得意な曲はエドワード・エルガーの『威風堂々』1曲のみ。オケでヴァイオリンを担当するみどりは、老指揮者・吉川から、自分が世界の超有名指揮者マエストロ・オルフェンシュタインの日本人弟子で、将来を嘱望されていたとおい昔話を度々聞かされる。そして自分の孫娘・美咲が誇りの指揮者としての才能を持っていることを語る。
しかし吉川があっけなく他界。オケの求心力だった吉川の急死で、オケはコンクールを前に解散の危機におちいる。だれか、指揮者はいないかとすったもんだの話し合いの末、みどりの頭に吉川の言葉がよぎる。「リトル・マエストラ…」吉川の孫娘の存在だ。みどりはオケに期待を一身に受け、美咲を迎えに行く。
しかし目の前に現れたのは、派手な格好の茶髪の女の子。そして生前の吉川の話と美咲から聞く話が大きく食い違う。美咲いわく「ほらふきじいさんだったんだよね〜」
でも新指揮者の到着を楽しみにしている町の人たちの期待を裏切る事ができない。みどりは苦渋の決断を下す。美咲を、天才少女指揮者リトル・マエストラに仕立て、コンクールに出場することを。
美咲が町に到着するとオケのメンバーは大喜び。チェロ担当の高校生の正也は、生まれつき気管支が弱い。美咲と一緒に帰る道すがら、夢はバスケットの仲間と思いっきりコートを駆け回ることだと話す。
ある日、漁協の事務所に美咲宛の電話が入る。代わりに電話に出た正也は、事実を知ってしまう。かかって来た電話の主は美咲のブラスバンド部の同級生で、天才少女指揮者なんていうのはうそっぱちだということ。
嘘がオケのメンバーに明かされる。美咲は本性を現し、メンバーの欠点を次々に指摘していく。「意味ないんじゃない?こんなオケ」。
みどりは美咲におもわず平手打ちをするが、美咲はみどりに告げる。「図星だからでしょ?こんなところに本当の音楽なんてない。あんただってずっとそう思ってたんでしょ!」
美咲は風の吹きすさぶ灯台のふもとで回想する。ブラスバンド部で自分が指揮をしていたときのこと。美咲の厳しい叱咤が部員の反感を招いたこと。部員から突き上げをくらったことが美咲の心に大きな傷を起こしていた。
トロンボーンを担当する源次は漁獲量の低下によって漁師を廃業にしようか迷っていた。息子の勝は家を出て金沢でアパート暮らしをしている。金沢の病院に入院している母親ももう長くはないと告げる。フルート担当で食堂を経営する洋子の家も、娘の沙希が東京に行くという。生まれ育った町との決別、大きな決断はメンバーたち一人ひとりにも迫っていた…。